平中 直也(葛西臨海公園探鳥会 担当)
オオルリ前線北上中!
実はオオルリには、幻のもう一つのオオルリが存在することをご存知でしょうか?
日本鳥類目録では、僕らが普段見ているオオルリである Blue-and-White Flycatcher(直訳すると"青と白のヒタキ")の一種だけなのですが、世界レベルでは既に2種に分離されています。
・オオルリ Blue-and-White Flycatcher
・チョウセンオオルリ Zappey’s Flycatcher
の2種で、この2つは違う種であるとされています。(この2つは日本ではまだ亜種の扱い)
このチョウセンオオルリ(以下、ザッピーと略)は、繁殖地が中国東北部ということだけが分かっており、実際の越冬地が東南アジアのどの辺りなのか、どういう渡りのルートを通って朝鮮半島→中国へと渡って行くのか、その生態が全く謎に包まれています。
鳥類学の世界的権威である米コーネル大学鳥類学研究所も「とにかくザッピーの情報を集めてほしい! 渡りの途中の個体を観察したら、記録して報告してほしい。」とアジア(特に中国、韓国)のバードウォッチャーに訴えています。
渡りのルートは日本のオオルリとザッピーは重なるらしいから、もしかして日本でも…
さて幻のオオルリはともかく、初夏の風物詩であるオオルリは、日本三鳴鳥の一つで、かつ青い鳥御三家の一つ。日本人の自然観・季節感にしっかりと根付いているオオルリをこの時期に見たり、さえずりを聞いたりすると、本当に嬉しくなるものです。
そして僕などはオオルリを観察しながら「これは、もしかして幻の鳥ザッピーなのではないか?もしそうなら初見だな。」とか、好奇心むき出しで森の中を歩いてみようとか思ったりするのです。
(ちなみに、この2種の判別は難しいみたい。写真はいつものオオルリです。)
「ロビン」(コマドリ)は、世界中で愛される"胸がオレンジ色の鳥"の愛称。
愛称ってだけで、日本のコマドリ(Japanese Robin)、ヨーロッパコマドリ(European Robin)、コマツグミ(American Robin)は、別の種です。
しかし、この色合いの鳥は世界中の皆さん大好きなんですよね。僕も好きだし。イギリスでは、ヨーロッパコマドリは実質国鳥の扱いです。
そもそもなんで「ロビン」という名前なのか?
15世紀、ヨーロッパの人々の間では、鳥の種の名前に人名を当てることが流行っていました。ヨーロッパコマドリは「ロビン・レッドブレスト」(Robin redbreast) と呼ばれるようになり、さらにそれが略されて「ロビン」(robin) となったそうな。
日本の「コマドリ」の名前の由来は、さえずりの「ヒンカラカラ」が、馬(駒)のいななきのように聞こえるからですね。
種としてのコマドリは、ヨーロッパコマドリと似てるけど、実際にコマドリの近縁種なのはコルリです。
そしてとても残念なことが、学問上のコマドリの扱いで起きてます。
コマドリとアカヒゲの学名を比べてみましょう。
コマドリ:Luscinia akahige akahige
アカヒゲ:Larvivora komadori
皆さん、気付きましたか?
コマドリの学名がアカヒゲになっていて、アカヒゲの学名がコマドリになっているのです。これは学名を登録する際の単純な事務ミスから、こうなってしまったようです。
種の違いはあれ、日本でもヨーロッパでもコマドリは愛される鳥。日本でコマドリというと個人的には「こまどり姉妹」なのですが、三味線片手に演歌を披露する2人の素敵なおばさま。今でもご活躍されてるそうですよ!
ヨーロッパコマドリは、様々な伝承や文学に取り上げられています。
特にマザーグースの「クック・ロビン」。コマドリの死から葬送までを語る長大な詩です。殺人を扱った詩であるため、多くのミステリー作家のモチーフとなっています。いわゆる「見立て殺人」のネタ。
そのクック・ロビンを最初に「見立て殺人」のモチーフに使ったのは、イギリスのミステリー作家イーデン・フィルポッツ。原題も「誰がコマドリを殺したの?(Who Killed Cock Robin?)」
この推理小説が、多くのミステリー作家がストーリーのバリエーションを広げていくきっかけとなりました。
そして現代に生きる僕たちも、そうした作家が創作した良質な推理小説を楽しむことができるようになったのです。
それにしても、鳥を題材にしたサスペンスや推理小説は多いですよね。最近のお勧めは「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ)です。これは最高に面白かった。
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