身近な野鳥の識別講座② カラス2種の識別

澤本 将太

桜もすっかり花を落として葉桜となりました。オオルリやキビタキがそろそろ現れますね。関東地方の日の出時刻も早くなり5時を切るようになっています。ゴールデンウィークが近づいてきましたが、今年は外出自粛要請が全国に拡大した状況のため遠出は控えましょう。

 

遠くに行けなくても、家の近くを歩くだけでも楽しめてしまうのがバードウォッチングです。天気がいい日は短時間でも外に出て、自宅の近くにある公園や散歩道などを歩いてみませんか? ちょっとした公園でも、街路樹や植え込み、園内の木々や池などを意識すると意外と多数の鳥たちが暮らしていることに気が付けると思います。

 

このコーナーでは引き続き、身近で見かける機会が多い種に焦点を当てて、似た種との識別点を整理して紹介します。1日家に籠るのではなく近所の自然に触れて、近場に暮らす鳥たちを観察してみませんか?「似ている種類でも実は違った!」とか、「こんな色なんだ!」とか、「こんな行動するなんて!」というような発見が近所でも味わえるかもしれません。

 

前回の本コーナーは、散歩道でも出会うことが多いシラサギ3種(ダイサギ・チュウサギ・コサギ)の見分け方を解説しました。池や川などの水辺が家の近くにあるという方には特に馴染みがあったかと思います。今回はもっと身近な鳥、カラスについてです。生活圏でもよく見かける2種類の黒いカラスの見分け方について紹介します。

 

●住宅街でも見かける黒いカラスの仲間

・ハシブトガラス(以下ハシブト)large-billed Crow Corvos macrorhynchos  全長56.5㎝・・・画像①

・ハシボソガラス(以下ハシボソ)Carrion Crow    Corvos corone 全長50㎝・・・画像②

 

画像① ハシブトガラス。嘴が太いからハシブトガラス。体格もハシボソよりもやや大きく見える。

画像② ハシボソガラス。嘴はハシブトガラスよりも細く、先端にかけてのカーブも直線的。


東京都心部ではハシブトを見かけることが多く、都心では道端の街路樹やビルの屋上、皇居などの都市公園に普通にいます。早朝の人の気配がない新宿などで、居酒屋から出されるゴミ袋に群がって残飯を盗んでいくのはハシブトです。一方、ハシボソは都心ではなく郊外の公園、河川敷など緑がより多いところで目撃することが多いです。しかし、この2種類は生息環境だけで識別することはできません。繁華街ではハシブトが多くても、河川敷だからハシボソ!というわけではないのです。たとえば、海岸沿いは都心と比べると周辺に木々が多くて開けた広場などもありますが、2種類が同時に見られることも普通です。

 

では、色も同じのこの2種類、どこで見分ければいいのでしょうか。主な見分けるポイントは次の4つの特徴です。

 

見分けるポイント

嘴の大きさと形

ハシブト→ハシボソより太く、上嘴は先端にかけて大きく湾曲する。

ハシボソ→ハシブトより細く、上嘴のカーブも緩やか。

見慣れてしまえば嘴だけで識別が可能。 

 

画像③ ハシブト(左)とハシボソ(右)並べてみると嘴の違いがよくわかる。ハシブトの嘴は先端にかけてよくカーブしているのに対して、ハシボソのそれは直線的。

 

頭部の形

ハシブト→額が出る。しかし採餌中などで額の羽毛を寝かせているときはハシボソに近い形になる。

ハシボソ→額は出っ張らず、嘴の先から頭頂部にかけてゆるやかなスロープ状に見える(ただし、羽毛を膨らませると頭部が丸く見えるので注意

 

画像④ ハシブトガラス。額が出ている。画像①との頭部の形状の違いに注意。

 

鳴き声

ハシブト→濁らずに澄んでいる「カー、カー」といわゆるカラスらしい鳴き方。

ハシボソ→濁る「ガーガー」や「グァー」などと聞こえる。

ただし、警戒時ではハシブトも「ガラララ・・・」と聞こえるやや濁った声で鳴くこともある。

 

 

鳴き方

ハシブト→やや前傾姿勢を取り「カーカー」と鳴く

ハシボソ→胸を膨らませて顎を引き、頭を上下しながら「ガーガー」と鳴く(お辞儀しながら鳴くイメージ)

 

以上、見分けるポイントを4点紹介しました。前述したとおり、嘴の形状を覚えてしまえば識別は簡単です。

 

興味がある方は、見た目の特徴だけでなく、動作などの違いも目を向けてみてはいかがでしょうか。前述のとおり、声だけでなく鳴くときの仕草が異なっています。ただ、4月末はちょうど営巣している時期でもあります。観察に夢中になるあまり、ハシブトが濁った声で「ガラララ」と近くで鳴くのが聞こえたら、速やかに離れましょう。彼らは人を襲ってきますし、長時間居座ると営巣放棄という結果を招いてしまう恐れがあります。

 

話は少し変わりますが、ここで紹介した2種類のカラスの羽毛は真っ黒ではありません。光が当たると光沢が出て美しいです。晴れているときは何色か、曇ると何色か。陽が当たる角度で羽毛の色がどのように変わるか観察してみるのも面白いと思います。画像⑤

また、カラスは顔がかわいいです。目がクリっとしています。画像⑥

 

画像⑤ ハシボソガラス。羽毛は真っ黒ではなく、深い青色光沢の羽毛がある。

画像⑥ ハシボソガラス。目が黒目でクリっとしている。頭部の羽毛が膨らんでいて額が出っ張っているように見えるが、嘴は細いのでハシボソ。


さて、身近でも見られる2種類の黒いカラスの見分け方いかがでしたか。

 

カラスは身近に暮らしている野鳥の中では大きくて目につきやすい鳥です。

知能が優れていることはご存じの方も多いと思います。実際、行動もいろいろ研究されていますね。前述した鳴き方の違いだけでなく、貝やクルミを上空から落として割る、ハンガーを庭先やベランダから盗んで巣材にしてしまう、食べ物を穴などに隠す貯食行為などたくさんのユニークな行動をする鳥です。声や姿が目立つので、ベランダや庭先からもその存在に気付くと思います。ゴミ袋も破って残飯を食いあさる習性があるので、ゴミ収集場所で見ることも多いですよね(最近は鉄製の籠を置くなどゴミ収集所のカラス対策を実施している自治体も増えてきているようですが)。

 

みなさんも、自宅近くでも観察できる機会が十分多い身近な鳥の代表格であるカラス、もっと観察してみませんか?

 



探鳥会でカラス類をじっくり観察したくなったら