冬の鳥見 充実計画 都市公園でも見られるカモ類の雌の識別(前編)

澤本 将太

 日に日に寒さが増してくる季節になった。鳥見に出かけても日照時間が短いので、日の出から日没まで14時間続けて鳥見ができる夏を思い出すと寂しくなってしまう。

 

 さて、10月下旬でも残っているキビタキやツツドリなどの夏鳥もさすがに東南アジアなど越冬地に旅立ってしまった11月も下旬。夏鳥と入れ替わるように、ガン・カモ・ハクチョウが北の方から続々と渡ってきている。「冬の使者」などと形容されてニュースでも目にするガン・カモ・ハクチョウ。このなかで、ガンやハクチョウは飛来場所が限られているため遠征しないと会えないという人も多いだろう。しかし、カモ類はどうだろう。彼らは手軽に観察できる親しみやすいグループだ。生息環境は多様で淡水・海水域問わず生息し、干潟や河口のような広い湿地に限らず、住宅地の小さな池やこじんまりした川などにも暮らしている。広い場所では数線~数万羽がという大規模な群れで見られることも珍しくないし、1つの池で10種類くらい混在していることもよくある話だ。

 

 今回は東京都東部と千葉県内の都市公園(23区東部)でもよく目にするカモ類のなかで潜らない仲間(水面採餌ガモ類)をピックアップして、似ていて紛らわしい雌の見分け方を紹介する。

 

 「雄はわかるけど、雌はわかりにくくて覚えられなくて苦戦している」

 そのような方々の観察の手助けになれば幸いである。

 

 

◆都市公園、どんなカモがいる?

  渡ってくる代表的な水面採餌ガモは以下7種

 オカヨシガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、マガモ、ハシビロガモ、オナガガモ、コガモ

 ※留鳥のカルガモと潜水採餌ガモの仲間は、今回は扱わない

 

◆都市公園、どんなカモがいる?

1.大きさを覚える 

  コガモ<ヒドリガモ≦ハシビロガモ ≦ヨシガモ≦オカヨシガモ<マガモ<オナガガモ

全長は、キジバトと同じくらいのコガモ(約40㎝)から、オナガガモ(雄:75㎝)まで大きさに幅がある。その間に属するカモたちは、ハシボソガラス(約50㎝)に近いサイズ感だ。※同種間のサイズにも差はあり、雄が雌より大きい傾向がある

 

 カモ類はひとつの池や沼でも複数の種類が入り乱れて群れを作っていることも珍しくない。多くの種類が一か所に集まっているのは、一度でたくさんの種類が見られるメリットはある一方、慣れていないと種の識別に苦労するだろう。そんなときに役に立つのは、大きさの感覚を養っておくことだ。大きさを知っておくと、「コガモのふたまわりくらいは大きい」とか、「ヒドリガモと同じくらいの大きさ」というように、わからない種類と出会っても解明のヒントが得られて謎が解けるかもしれない。

 

 カモ類の大きさの違いが都市公園におけるカモ類の種の構成に関係していると思うことがある。たとえば、オナガガモが多い池はコガモが少ない傾向がある。考えられる理由の一つは、都市公園で行われやすい人為的な餌やり(※)だ。通行人や行楽客が与えるパンなどの餌にいち早く反応するのはオナガガモで、餌やりが実施されるとオナガガモが著しく増えやすい。ハシビロガモ、ヒドリガモ、マガモも人が撒く餌にくる常連で、場所によってはヨシガモも餌によってくる。ところが、オカヨシガモやコガモは餌に付きにくい。特にコガモは身体が小さいことも関係しているのか、餌付けが行われている池で身体が大きいオナガガモたちと同じ空間にいると、近寄らずに遠巻きに群れていることが多い。とはいえ、コガモも絶対に餌付かないわけではないようで、筆者は人が撒いたパンにコガモの群れが集まる姿を見たことがある。その場所はオナガガモはおらずコガモのみだったためか、コガモたちも穏やかにパンを食べることができていた。

 

※餌やりについて

個人でむやみに餌を与えるのはNG行為なので慎もう。近年は管轄している市役所や施設が「餌やり禁止」という趣旨の看板を設置していることも多い。

 

 

散歩する人が与えたパンを食べに上陸したオナガガモとヒドリガモ

  

岸辺に遊びに来た家族連れが与えた食物を食べに来ていたコガモ

ほかのカモ類はおらずコガモだけがパンなどを食べていた

 

 

2.雄の生殖羽から! 

  光沢のある緑、鮮やかな赤、シックで落ち着いた銀色。カモ類の雄は、きらびやかな色の羽毛を冬に獲得する。それは生殖羽と言われるもので、色や姿は種によって明確に異なり、褐色で一見同じに見える雌とは大違いである。そのため、カモ類を覚えるにはまずは雄の生殖羽から着手する方がいい。

 

今回ピックアップするカモ類の雄生殖羽。赤、緑、灰色、緑など羽毛の色は多種多様だ

 

  

 なお、9月や10月に渡ってきた直後の雄は雌にそっくりな色の羽毛(エクリプスおよび雄の幼羽)になっていて、雌と区別が紛らわしい。

 

 越冬地はエクリプスや幼羽から生殖羽に変わる過程を観察できるのがいいところで、カモの雄が綺麗な生殖羽に変わっていくプロセスを観察していくのもカモ観察の醍醐味だ。生殖羽に変わる時期は、種や個体によって異なる。たとえば、オカヨシガモの雄は生殖羽へ変わるのが早いようで、関東地方に渡来する頃は生殖羽への換羽が進んでいることが多い。そのため完全なエクリプスはなかなかお目にかかれない。

 

 個体差の一例はオナガガモで、名前にある「オナガ(尾長)」は、群れを観察していると、尾羽が長い/短い個体が群入り乱れているのがよくわかる。

 

オナガガモ(雄成鳥)の羽毛の変化

渡ってきた直後の9~10月はほとんどエクリプスだが、日数経過とともに顔が次第に褐色になり、脇や肩羽に銀灰色の羽毛が出現する。そして「尾長」の名にふさわしい立派な中央尾羽は抜け替わると徐々に伸びていき、年が明ける頃には針のように鋭く長い尾羽を獲得した個体が増える。

 

 

3.雨覆と翼鏡 

  カモ類の種を見分けるには、翼を見ることも大いに役立つ。翼にある「雨覆(あまおおい)と「次列風切(じれつかざきり)」と呼ばれる部位が、水面採餌カモ類では種ごとに色が分かれているからだ。そのため、雨覆と次列風切に着目して観察してみてほしい。

 

・雨覆

水面採餌ガモは、雨覆の模様が種類ごとにパターンが異なるため種の区別に有効。

雨覆は翼をたたんでいても、肩羽と脇羽の間から覗いて見えるし、水浴びや羽繕いで確認がしやすい。

 

・翼鏡

カモ類の翼にはキラキラした光沢のある部分がある。そこは次列風切(じれつかざきり)と呼ばれる部位で種ごとに色が決まっている。その色は、光沢がある緑や青、紫、白、黒、褐色などさまざまなのだが、同じ個体を見ても日陰と日向、順光や逆光といった光の条件で色が大きく変わる。

 

コガモ雄成鳥エクリプス (4枚とも同一個体) 2014年10月4日。千葉県。

・雨覆→灰色と薄い橙色の2色で構成(図の①)、

・翼鏡→濃い緑と黒の2色(同②)

翼鏡や雨覆の色や見え方の違いは、羽毛の重なりや姿勢の違いによるもの。

 

 

 

次回は、カモ類の雌の識別に挑戦!後編へ続く。