雀のあれこれ

増田 徹(Young探鳥会担当)

野鳥の世界にのめり込んでいくと、やはり、珍しい鳥に惹かれ、いつでもどこにでもいる鳥というのはとかく軽視されがちです。いつでもどこにでもいる鳥筆頭のスズメを、ありがたがる人には出会ったことがありませんが、一方で日本人はスズメに対し、古来より人里近くで暮らしてきたからこその、特別な愛着を持っているのではないでしょうか。私を野鳥の世界に導いてくれたのはスズメでして(ユリカモメ2020年4月号参照)、今回はスズメについて語ってみたいと思います。

 

 

 

スズメは漢字で雀と書きます。分解すると、小+隹(とり)で小鳥という意味です。スズメの語源としては、「スズ」はチュンチュンのように鳴き声を表し、「メ」は鳥を表す接尾語だと言われていますが、「スズ」は小さいものを表す接頭語「ササ」が変化したものとも言われています。要は、スズメの名もまた、小鳥という意味があるようですね。

 

そもそも、スズメという語は、小鳥全般を指す言葉でもあったようで、「種のスズメ」を言う場合は、「小鳥としてのスズメ」と区別するよう、マスズメやイエスズメなど接頭語をつけて呼ぶ地域が多数ありました。種カモメを「ただカモメ」と呼ぶようなものでしょう。また、ツバメをツバクラメと呼ぶように、「クラ」も小鳥という意味合いがあり、スズメのことをイタクラやフクラと呼ぶ地域もあったようです。面白い方言では、ノキバノオバサンと呼ぶ地域もあったとか。群れて騒がしく鳴いている様子を、井戸端会議をするおばさんに重ねてからかったのでしょうか。これらの方言名は突発的に生まれたというより、周囲の地域の方言名と関係しながら微妙に変化していき、各地に点在する形となったようです。私は、スズメ(や他の鳥)の方言名や文化との関わり合いについて興味がありますので、「子どもの頃地元ではスズメを○○と呼んでいた」「祖父母からこう聞かされていた」みたいな話がありましたら、探鳥会でお会いした時にでもぜひ教えてください。

 

さて、雀という字に目を移すと、雲雀(ヒバリ)、四十雀(シジュウカラ)、雀鷹(ツミ)など、他の鳥の名前によく登場します。これはスズメというより、小鳥としての意味合いが強いのではないかと思います。孔雀(クジャク)は大きいですが…。四十雀は、諸説ありますが、シジュウと鳴くクラ(=小鳥=雀)という意味で名付けられたと思われます。

 

 

 

 

芸術の分野では、竹内栖鳳の日本画が有名でしょうか。枕草子では心ときめかせるものとして、子供のスズメを飼い育て懐かせる、「雀の子飼い」が紹介されています。落語では「抜け雀」という題目もありますね。俳諧の世界では、スズメ単体では無季とされていますが、他の語と組み合わせることで春夏秋冬を問わず句を詠むことができます。春の季語として、「恋雀」、「雀交る(さかる)」、「孕み雀」、「子雀」。「鳥の巣」で春の季語ですが、中でも雀の巣に関する句は多数あります。秋の季語として、「稲雀」、「秋雀」。冬の季語として、「寒雀」、「冬雀」、「凍え雀」、「ふくら雀」。新年の季語として「初雀」。春夏秋冬を問わずと書きましたが、夏だけ見当たらない…。しかし、これだけの季語が存在するのは、スズメが愛されてきた証と言えるでしょう。

 

ちなみに冬の季語として寒雀を詠んだのは、山本健吉の談によると小林一茶が初めてのようですが、元は焼鳥として食べる際には寒中のスズメが最も美味とのことで生まれた言葉だそうです。スズメを食用とする文化が廃れたため、寒雀も同じく廃れてしまったのでしょうか、余り馴染みのない言葉ですね。他の季語も、元々が俳諧の世界の言葉なのか、もっと生活に根差していた言葉なのか分かりませんが、ふくら雀を除いては余り使わない言葉でしょう。恋雀は字面が可愛いですし、稲雀も日本の秋の田園風景を思い起こさせる綺麗な言葉なように思います。これらのような言葉が消えていくのは、日本人が自然を慈しむ心を失くしていっているようで、少し寂しい気がします。

 

最後に、以前鳥仲間と福島県の裏磐梯へ行き、ニュウナイスズメを探していた時の話で筆を置きたいと思います。同行していたNくんが、「ニュウがあるなぁ、スズメだ」「ニュウがない!ニュウナイスズメ!」などと、ほっぺの黒い部分を「ニュウ」と呼び、スズメかニュウナイスズメかを識別し出しました。その時は、「あれニュウっていうの?」などと笑っていたのですが…。後日、ニュウとは黒子(ほくろ)のことで、黒子すなわちニュウがないからニュウナイスズメになったという説を柳田国男が唱えていることを知りました。Nくんの冗談と同じことを、民俗学の第一人者が真面目に唱えていることを、なんだか可笑しく思いました。 

 

 

参考文献:

  • 柳田国男(1940) 野草雑記・野鳥雑記
  • 山本健吉(1980) ことばの歳時記
  • 小林清之介(1983) 動物五百区 ―私の動物歳時記―
  • 風信子(2008) 俳句と詩歌であるく鳥のくに
  • BIRDER(2016年7月号)
  • 安部直哉(2019) 野鳥の名前 名前の由来と語源

 

探鳥会でスズメをじっくり観察してみたくなったら