『48年目の悲願達成、佐渡島のトキ』

西村眞一(中西悟堂研究家/善福寺公園探鳥会担当)

 昭和51(1976)年3月に近所の本屋にて、平凡社発行の動物写真雑誌『アニマ4月号』を購入した。まだ日本野鳥の会には入会していなかったが、アニマの表紙のトキの写真が気になり購入した。特集は「トキ 絶滅とはなにか」だった。この時に、いつかはトキを見たいものだと思った。

 

アニマ 1976年4月号(西村眞一所蔵)

 

昭和51(1976)年に、佐渡島(以下佐渡)にいるトキの個体数は、わずか8羽ほどだった。同年8月に、(財)日本野鳥の会と日本野鳥の会東京支部(以下当会)に入会し、同年9月当会主催の高尾山探鳥会に参加して、私の鳥人生がスタートした。当時の当会の支部長は、川田 潤だった。昭和53(1978)年3月に環境庁(現環境省)は、産卵するトキの卵を捕獲して、人工増殖する計画を立てた。そのトキの産卵を確認するプロジェクトの人員に、川田支部長が選任された。当時川田支部長は、昭和47(1972)年から環境庁が行っている特殊鳥類等調査の一環として、記録映画の製作に携わっていた。その関係で、このプロジェクトを任された。川田支部長は3人の青年と共に、佐渡で夜明けから日暮れまでトキを観察した。そして産卵の日を4月8日と予測して、13日早朝にトキの卵3個が採取された。この卵はその後に、上野動物園に運ばれた。ただ残念なことに、3個の卵全てが無精卵だった。この顛末に付いては、昭和61(1986)年3月理論社発行の川田 潤著『トリキチ一代記』に、詳しく書かれている

 

川田 潤著『トリキチ一代記』(西村眞一所蔵)

 

川田 潤著『トリキチ一代記』(西村眞一所蔵)

 

 環境庁は昭和56(1981)年に、トキを全羽保護して人工繁殖を試みたが繁殖はせずに、平成15(2003)年に最後のトキ“キン”が死んで、日本のトキは絶滅した。但し平成11(1999)年に中国から贈呈されたトキの人工増殖が成功して、平成20(2008)年にトキの自然放鳥が始まった。翌年4月に当会の佐渡島探鳥会が行われ、私も担当者として参加したが、残念ながら野外にいるトキを見ることはできなかった。同年8月には家族旅行で佐渡に行ったが、この時もトキには出会えなかった。

 東京都杉並区阿佐谷北5-45-24にある区立杉森中学から、杉並区阿佐谷北5-35-5にある区立お伊勢の森児童遊園のあたり一帯は、かつて“お伊勢の森”と呼ばれていて、阿佐ヶ谷駅北口にある“阿佐ヶ谷天祖神社(現阿佐ヶ谷神明宮)”の旧社地だった。この“お伊勢の森”に、トキが繁殖していて「老松や 青く茂りて 御伊勢山 ときの巣造る 神徳の松」の歌が残っている。その歌からか、お伊勢の森児童遊園にはトキのモニュメントが設置されている。

 

かつては佐渡に出かけなくても、自宅からほど遠くない場所に、トキが繁殖していたことになる。

 

阿佐ヶ谷神明宮 125

 

お伊勢の森児童遊園 125

 

お伊勢の森児童遊園 トキのモニュメント 125

 

 トキの仲間は世界に23種類いる。ほとんどのトキは、熱帯から亜熱帯に生息している。

 

その中にクロトキがいる。平成30(2018)3月に、ミャンマーのモンヨージー湖にてクロトキを見た。

 

クロトキ ミャンマー・モンヨージー湖 2018年3月15日

 

 12月6日7日と、以前に当会の遠出探鳥会の旅行業務を委託していたH旅行社のバードウォッチングツアーで佐渡に出かけた。6日の夕刻に、ついにトキを見ることができた。

トキを見てみたいと思ってから48年、やっと悲願が達成された。

 

トキ 126

 

 

トキが生息しているのは主に佐渡の中央に横たわる、国中平野である。

 

国中平野 12月7日

 

国中平野には、トキの塒となる林や餌場となる田んぼがある。佐渡の農家の方は、極力農薬を使わない米作りをしている。稲刈り後の田んぼにも水を張り、「冬水たんぼ」としている。

 

冬水たんぼ 127

 

 

トキの餌は、カエル、サワガニ、ザリガニ、ヤゴ、ドジョウ、ミミズなどの水辺の生き物や陸の生き物である。トキは長い嘴を田んぼの土の中にさして、餌を採っていた。

トキ 127

 

トキ 127

 

 

トキは繁殖期と非繁殖期では、羽の色が違う。12月は非繁殖期なので、羽の色が“朱鷺(トキ)色”である。この羽の色は表と裏とで濃さが違い、裏側の羽の色の方が濃い。

 

トキの飛び立ち 127

 

トキの着地 12月7日

 

現在佐渡のトキは、約500羽が生息している。人工増殖で放鳥されたトキが自然繁殖を繰り返しており、全てのトキには足環は付いていない。

 

トキ右側の個体足環付き(522) 12月7日

 

人家近くの田んぼにも、トキがいた。

 

トキ 12月8日

 

最後に訪れた加茂湖では、遠くの紅葉した山並みをバックに、着地点を探しているのか下を見ているトキの姿が撮影できた。次回は繁殖期に来て、繁殖羽に変わったトキに出会いたいものである。

 

トキ 12月8日