増田 徹(Young探鳥会担当)
先日、過去の野鳥誌(日本野鳥の会本部の会報)をどっさり手に入れたので、パラパラと読んでいるのですが、その中の柳田國男のある記事を読んだことをきっかけに、鳥の色のことが気になるようになりました。
鳥の色のことというのは、アカゲラやルリビタキのように、鳥名に色が付く鳥が沢山いることと、また一方で色のことを調べていると、鳶色(とびいろ)や鶸色(ひわいろ)など、鳥の名前の付いた色名も存在することを知り、興味が湧いたのです。調べられた範囲で、鳥の名前の色と色の名前の鳥についてご紹介してみます。
色の名前をスマホで検索すると色見本のようなものが出ますので、右手ではそちらを参考に、左手では図鑑で鳥の色彩を確認しながら、肘かアゴでマウスを動かしてPCでこの記事を読んで頂けたらと思います。
〇赤系の色
赤系の色で鳥の名前に採用されているものには、アカゲラやアカショウビンの赤、ベニマシコやベニヒワの紅(べに)、ヒレンジャクやヒドリガモの緋色(ひいろ)、タンチョウの丹色(にいろ)、モモイロペリカンの桃色、バライロムクドリの薔薇色、シュバシコウの朱色などがあります。ひと口に赤系といっても、随分バラエティに富んでいますね。また、アマサギは飴鷺または猩々鷺と書き、亜麻色ではなく飴色のあめが転訛したものです。猩々はオランウータンのことで、猩々緋(しょうじょうひ)という色があります。一方、鳥から名前を取った色として鴇色(ときいろ)という色があります。纁(そひ)という伝統ある赤系の色は、ある鳥と関係があるのですが、これに関しては若干複雑ですので後程お話しします。
【桃色】あえてのモモイロペリカン
○紫系の色
紫系の色では、ムラサキサギの紫しか見つかりません。また、鳥から取った色も、鳩羽紫(はとばむらさき)という色しか見つかりませんでした。ドバトの首のあたりの紫色が元になったのでしょうか。
紫という色は、昔から洋の東西を問わず高貴な色とされていました。聖徳太子が制定した冠位十二階では、位によって冠や衣の色が定められ、中でも紫は最も高い位の色でした。
【鳩羽紫】よく見るとドバトの構造色も綺麗
〇青系の色
青系の色では、アオショウビン、アオシギの青、コンヒタキの紺がありました。面白いのは、ルリビタキやオオルリなど、青い鳥の名前の多くに瑠璃が使われることです。瑠璃というのは、仏教における七宝のひとつにも挙げられる濃青色の鉱物、ラピスラズリのことで、古くから珍重されました。単純にアオとせずルリと表現したのは、昔の人もそれだけその美しい羽衣に魅了されたのかもしれませんね。
また、アオと名の付く鳥は多いですが、アオバト、アオゲラなどは緑鳩、緑啄木鳥と書くように緑色、アオサギやオオタカは蒼鷺、蒼鷹と書き、体色は灰色味がかった色をしています。アオジは蒿鵐と書きますが、蒿は雄の顔の色を表すよもぎ色を意味しており(鵐はシトドと読み、ホオジロのことです)、アオアシシギの脚の色も明瞭なブルーではなく、少し緑がかっているように思います。信号機の緑を“アオ”というように、昔は青の範囲が広かったのだと思いますが、だからといって昔の人は青と緑やその他の色を区別できなかった訳ではなく、古事記において「そに鳥の青き御衣」というような記載も残っています(ここでのそに鳥はカワセミのことだと言われています)。
【瑠璃色】新緑のオオルリ
〇緑系の色
緑系の色ですが、調べてみたところ余り鳥の名前には採用されないようです。一応、ミドリツバメという鳥がいますが…写真を見るとそんなに緑じゃない…?前述のアオバトやアオゲラは漢字名こそ緑と付きますが、読み方はアオに取られてしまいました。メジロやマガモ、ヨシガモなど緑色の目立つ鳥はいるのですが…。マガモの別名は青頸(あおくび)とも呼ばれ、こちらも“アオ”扱いですね。昨年都内に飛来し話題になったロクショウヒタキの緑青(ろくしょう)くらいしか見当たりませんでした。一方で、鳥から色の名前になったものとして、鶯色、鶸色、山鳩色が挙げられます。
〇黄系の色
黄系の色としては、キセキレイやキビタキの黄色くらいでしょうか。キアシシギやキマユホオジロ、キガシラシトドなど、体の一部が黄色い鳥の名前にも登場するケースが比較的多い気がします。
【黄色】近所で見つけたキセキレイ
〇茶系の色
茶系の色は、マミチャジナイなどの茶色、ゾウゲカモメの象牙色、前出のアマサギの飴色しか探し出すことができませんでした(猩々緋は赤系の色ですが飴色は茶系の色に分類されるようです)。思うに、茶色い鳥は沢山いるので、茶色は鳥名に充てるほどの特徴にならないのではないでしょうか。一方、鳥由来の色名としては鳶色、雀茶、鶸茶、鶯茶、鳥の子色などがあります。また、黄昏時の空の色のことを雀色時といいます。
【飴色】アマサギは亜麻色ではないのです
〇黒白系の色
黒白系の色として、クロツグミやセグロセキレイなどの黒、ハイイロチュウヒやハイイロオウチュウの灰色、シロハラやハクガンなどの白があります。色の名前ではないですが、ユキホオジロの優しい色合いを“雪”と表現したのも素敵な命名だと思います。ハシグロアビ、セグロカモメ、マミジロキビタキ、コシジロウミツバメ、シラオネッタイチョウなど、黄色と同じく体色の一部が黒や白い鳥は、名前にも採用されることが多いようですね。鳥由来の色としては、明治から大正初期にかけて流行した鳩羽鼠(はとばねずみ)という色があります。キジバトをはじめとする山鳩というよりドバトをモデルにした色かなと思いました。
【灰色】渡良瀬遊水地のハイイロチュウヒ
〇金銀系の色
金銀系の色としては、キンクロハジロやキンメフクロウなどの金、ギンムクドリの銀があります。キンクロハジロは虹彩の色を由来としているのでしょう。キンバト、ギンザンマシコはそれぞれ漢字名は金、銀を用いますが、鳥の色としては金と銀ではないですね。ギンザンマシコの銀山は北海道の地名由来のようです。キンバトは…どういう意味なのでしょう?昨年は東京、今年は北京とオリンピックイヤーが続きました。銅がいれば…と思いましたが、銅の付く鳥の名前は見当たりませんでした。ドウガネブイブイというコガネムシが思い浮かびました。
【金色】キンクロハジロ。金に黒に白なんて欲張り!
いかがでしたか?思ったより鳥の名前に色が使われ、また、色んな色の名前に鳥が登場する印象ではないでしょうか。やはり、色というのは、その鳥の特徴をよく表すのだろうなと思います。また、鮮やかな色彩の羽衣を持つ鳥の名を、色の名前に多く採用されているのも、自然に対する憧れや愛着、リスペクトのようなものが感じられ、嬉しく思います。
次回は、ある鳥とある鳥についての色の考察のようなものをご紹介します。後編へ続く。
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