『90年前の野鳥巣箱架け』

西村眞一(中西悟堂研究家/善福寺公園探鳥会担当)

 中西悟堂の資料を集めるきっかけとなったのが、20数年前に「日本の古本屋」で何気なく「善福寺」と検索したら、ふくべ書房出品の『善福寺禁猟区と巣箱』がヒットした。

『野鳥』誌の昭和16(1941)年2月号の別刷で、1000円で入手した。『野鳥』の別刷があることを、この時に初めて知った。その後に、ふくべ書房より自然誌関係古書目録が送られてきたが、なんと掲載古書が1万点以上もあって驚いた。

この目録には野鳥古書関係も多数あり、その後この目録から野鳥古書を次から次と購入するようになった。

中には戦前に発行された、幻の野鳥図鑑と言われる榎本佳樹著の『野鳥便覧上巻・下巻』もあった。

しかも何とこの『野鳥便覧上巻・下巻』は、榎本佳樹が中西悟堂に謹呈した超レアものであった。

もちろん即刻で申し込み、入手することができた。

 

野鳥 昭和16年2月号

 

野鳥 昭和16年2月号『善福寺禁猟区と巣箱』

 

野鳥 昭和16年2月号別刷り

 

『善福寺禁猟区と巣箱』は、今から90年前の昭和9(1931)年5月当時、中西悟堂が住んでいた善福寺風致地区に、野鳥の巣箱を架ける内容である。

ちなみにこの巣箱架け事業は、農林省では大正時代より各地で行われていたが、一民間人が巣箱を架けることは、日本では初めての出来事であった。

この『善福寺禁猟区と巣箱』の中に、善福寺風致地区に架けた30箇所の巣箱の位置が、番号入りで地図上に記載されている。

 

善福寺風致地区禁猟区図及び巣箱架設状況(中西悟堂画)

 

現在の善福寺風致地区案内図 2024年3月31日

 

以前に中西悟堂の長女の小谷ハルノさんから寄贈していただいた資料の中に、なんと中西悟堂直筆のこの巣箱架設状況図の版下や、巣箱を架けている中西悟堂の写真があった。地上約5m高さの赤松に登っている中西悟堂の写真である。

 

赤松の上の中西悟堂(矢印)

 

中西悟堂が善福寺風致地区に巣箱を架けてから88年後の一昨年に、善福寺公園サービスセンターの建物に2個の巣箱が架けられた。一昨年は巣箱の利用はなかったが、昨年になって1個の巣箱に、シジュウカラが営巣するようなり、5個の卵を産んだ。センター職員がシジュウカラの巣立ちを楽しみにしていたが、残念ながら巣箱に蛇が侵入して、卵は全滅となってしまった。

 

巣箱 2024年5月12日 善福寺公園サービスセンター

 

 今年の3月に上池の一角に、新たに巣箱2個が架けられた。

 

巣箱 2024年5月12日 善福寺公園上池

 

 中西悟堂が善福寺風致地区に巣箱を架けてから90年となる今年、新たな巣箱で野鳥の繁殖がなることを、願っております。