西村眞一(中西悟堂研究家/善福寺公園探鳥会担当)
昨年9月に(一社)日本鳥学会から、『日本鳥類目録【改訂第8版】』が発行された。
2012年9月に日本鳥学会創立100年記念として発行された『日本鳥類目録 改訂第7版』の改訂版である。
この『日本鳥類目録【改訂第8版】』の中身について、当会の会報誌ユリカモメ2025年4・5月号、6・7月号、8・9月号に、(公財)山階鳥類研究所の平岡 考参与が寄稿している。
日本鳥類目録改訂第7版(左)、日本鳥類目録【改訂第8版】(右) 西村眞一所蔵
この『日本鳥類目録【改訂第8版】』には、日本に自然分布の644種類と外来種46種類が掲載されている。
この『日本鳥類目録【改訂第8版】』に準拠した野鳥図鑑が、各出版社から発行されている。
最新の野鳥図鑑は、6月30日に文一総合出版から発行の『フィールド図鑑 日本の野鳥第3版』である。
フィールド図鑑 日本の野鳥第3版 西村眞一所蔵
イラスト 水谷高英 解説 叶内拓哉 文一総合出版発行 (2025年6月30日)
最新の野鳥図鑑が『フィールド図鑑 日本の野鳥第3版』であるが、では日本で最初の野鳥図鑑はいつ発行されたか。
これについては日本野鳥の会の野鳥誌(1991年3月号特集・鳥の図鑑P.21)にある「日本最古の鳥の図鑑は?」の記事の中で、日本最古の野鳥図鑑は明治26(1893)年発行の『有益鳥類図譜』であり、国会図書館にあるとあった。
当時野鳥の古本の収集を始めていたが、さすがに98年前のこの古本は、神田神保町の古本街にもありませんでした。
また当時は、古本をネットで探すすべもありませんでした。
今では『日本の古本屋』で検索すると、探している古本を入手することができます。
入手をあきらめていたところ、この野鳥誌の記事を読んでから5年後に、神田神保町の中野書店から送られてきた古書目録に『有益鳥類図譜』を見つけた。
値段は15,000円だった。
この古書目録は、先着順で申し込みなのですぐに電話したところ、「もう、目録つきましたか。」という返事で、私が第1番目の申し込み者だったのです。
『有益鳥類図譜』の定価は、壱円七拾五銭だった。
朝日新聞社発行(1981年1月30日)の『週間朝日編 値段の明治大正昭和』によると、明治25年当時のビール大瓶1本の値段は、14銭だった。
入手後に調べてみると、全ページはそろっておらず、所々が抜けている落丁の本だった。
この本の顛末を当会の会報誌ユリカモメ2005年10月号で紹介したところ、なんとこの記事を読んだ『有益鳥類図譜』を持っている会員の方から、落丁ページのカラーコピーの提供の申し出が当会の事務所にあり、ありがたくカラーコピーを送ってもらった。
『有益鳥類図譜』は170ページで、掲載種は“たんてふ(タンチョウ)“から“ゐつくひゐ(ヒクイナ)”まで、50種類の鳥が文章で紹介されている。
図版は石版画だが、所々に彩色が施されている。
有益鳥類図譜
成島謙吉 籾山 釣著 牧畜雑誌社発行 (1893年3月10日) 西村眞一所蔵
有益鳥類図譜 第十七図 あかけら(アカゲラ)
最初の野鳥図鑑は『有益鳥類図譜』だが、2番目の野鳥図鑑は明治31(1898)年発行の『保護鳥図譜』であった。
『保護鳥図譜』は、比較的に簡単に入手できた。
今現在『日本の古本屋』にも、出品されている。『保護鳥図譜』の編纂は、理科大学教授の飯島 魁理学博士だった。
飯島 魁はその後に、日本鳥学会の初代会頭(現在は会長)を務めた。
保護鳥図譜
飯島 魁編纂 農商務省農務局 有斐閣書房発行 (1898年3月17日) 西村眞一所蔵
何故だか、この本には定価の記載がない。
丹頂鶴から琉球鴉鳩まで64種類の鳥が、保護すべき鳥と紹介されている。
保護鳥図譜 一図(中)タンチヨウ、二図(右)マナヅル、三図(左)ナベヅル
保護鳥図譜 四図(右)クロヅル、五図(中)ソデグロヅル、六図(左)アネハヅル
クロヅル(左)、アネハヅル(右) 1987年1月4日 鹿児島県出水市
ソデグロヅル 2022年1月23日 鹿児島県出水市
『有益鳥類図譜』『保護鳥図譜』共に、“図鑑”ではなく“図譜”になっている。
岩波国語辞典によれば、“図譜”とは「説明のために絵をあつめたもの」とある。
戦前の動植物図鑑では“図鑑”ではなく、“図譜”や“図説”が一般的だった。
また『有益鳥類図譜』『保護鳥図譜』に『有益鳥類』や『保護鳥』といった題名が付いているのは、明治時代初期に行われていた狩猟との関係が深い。
当時は銃器による鳥獣の捕獲は規制されていたが、その他の猟具の規制はなくて、多くの鳥獣が捕獲されていて数が減っていた。
そのために明治政府は明治25(1892)年に「狩猟規則」を交付し、明治28(1895)年に「狩猟法」が初めて法律として、公布されたのである。
西村所蔵の『有益鳥類図譜』と『保護鳥図譜』は、令和元(2019)年10月12日~12月22日迄、杉並区立郷土博物館分館で開催された野鳥図鑑画家の谷口高司さんと西村とのコラボ企画展「野鳥~杉並が生んだ図鑑画家の眼 杉並で見つめつづける写真家の眼~」展で、2冊共に展示された。
「野鳥~杉並が生んだ図鑑画家の眼 杉並で見つめつづける写真家の眼~」展
2019年10月14日 杉並区立郷土博物館分館
昨年の7月13日~11月4日迄、千葉県我孫子市にある我孫子鳥の博物館で“「山階芳麿博士の作った図鑑」―『日本の鳥類と其の生態』ができるまでー”展が開催され、『有益鳥類図譜』と『保護鳥図譜』が共に展示されていた。
この展示の図録が、我孫子鳥の博物館で販売されている。
図録「山階芳麿博士が作った図鑑」―『日本の鳥類と其の生態』ができるまでー
編集:我孫子市鳥の博物館 公益財団法人山階鳥類研究所
発行:我孫子市鳥の博物館 (2025年3月31日)
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