『日本で最初の鳥類生態写真集』

西村眞一(中西悟堂研究家/善福寺公園探鳥会担当)

 前回のコラムで『日本で最初の野鳥図鑑』について書いたが、では『日本で最初の鳥類生態写真集』は、いつ誰の撮影で発行されたのだが、今から95年前の昭和5(1930)年3月に三省堂から発行の『日本鳥類生態寫眞集 第一輯』が、『日本で最初の鳥類生態写真集』である。

撮影者は下村兼二(1903~1967、のちに下村兼史と改名)である。下村の地元九州を中心に、鹿児島県出水のナベヅル、マナヅルや珍しいナベコウ、有明海のハマシギやトウネンの群飛、兵庫県出石山のコウノトリの親子など56図の写真と共に、共著の内田清之助(1984~1975)によるそれぞれの鳥の解説文が、和文と英文とで併記されている。

内田清之助は農学博士で、昭和21(1946)年11月から昭和22(1947)年5月まで、日本鳥学会の会頭を務めた。

 


鳥類生態寫眞集 第一輯 内田清之助謹呈本 西村眞一所蔵

内田清之助、下村兼二 三省堂発行  (1930年3月1日)  定価3円50銭 

 

鳥類生態寫眞集 第一輯 第九図 マナヅルの一団

 

マナヅル 2022年1月22日 鹿児島県出水市

 

 第一輯発行の翌年に、『富士山麓地方の鳥類』の書名で第二輯が発行された。

鳥類生態寫眞集 第二輯(左:箱)  西村眞一所蔵

内田清之助、下村兼二 三省堂発行  (1931年5月5日)  定価4円 

 

 富士山麓の須走で繁殖するビンズイからアマツバメまでの小鳥類を、下村が3年間にわたり撮影した58図の写真集である。

この中の1枚に「ツツドリを育てるセンダイムシクイ」の写真がある。

いわゆる托卵されたツツドリの雛に、仮親のセンダイムシクイが餌を与えている写真である。

 

鳥類生態寫眞集 第二輯 第三十二図 センダイムシクイとツツドリ(其二)

 

この写真集で驚くのは、アマツバメの飛翔写真があることである。

現在のデジタルカメラやオートフォーカスのレンズでの撮影ならわかるが、当時のカメラレンズを使って、高スピードで飛行するアマツバメの飛翔写真を撮ったことに驚く。

 

鳥類生態寫眞集 第二輯 第五十八図 アマツバメ

 

朝日新聞社発行(1981年1月30日)の『週間朝日編 値段の明治大正昭和』によると、昭和6(1931)年当時のビール大瓶1本の値段は、35銭だった。

 昭和8(1933)年5月に、自然関係の小型写真集が北原白秋の弟の北原鐡雄が社長のアルスから発行された。

『アルス科學寫眞叢書』である。

中西悟堂が企画・編集や執筆者の選任を担った。

最初に『野生の花』『動物園』『本州に蕃殖する鳥』が発行されて、その後も毎月1~2冊が発行された。

下村兼二は、『本州に繁殖する鳥』『鳥の巣と卵』『小笠原島の動植物』『樺太の動植物』『渡り鳥の生活』を著した。

 

本州に繁殖する鳥 西村眞一所蔵

解説:石澤健夫 撮影:下村兼二 アルス発行(1933年5月) 定価50銭

 

鳥の巣と卵 西村眞一所蔵

解説:石澤健夫 撮影:下村兼二 アルス発行(1933年6月) 定価50銭

 

小笠原島の動植物 西村眞一所蔵

下村兼二 アルス発行(1933年7月) 定価50銭

 

この『小笠原島の動植物』には、めぐろ、しちとうめじろ、をがさはらうぐひす、いそひよどり、のすり、かつをどり、あをさぎ、きあししぎ、おほあじさし、あはうどり、しろはらみづなぎどり、をながみづなぎどりの12種類の鳥の写真が載っている。

 

メグロ 2010年10月8日 東京都小笠原村(母島)

 

メジロ 2010年10月8日 東京都小笠原村(母島)

 

ウグイス 2010年10月8日 東京都小笠原村(母島)

 

イソヒヨドリ 2010年10月9日 東京都小笠原村(母島)

 

ノスリ 2010年10月9日 東京都小笠原村(母島)

 

カツオドリ 2010年10月7日 小笠原航路

 

樺太の動植物 西村眞一所蔵

下村兼二 アルス発行(1933年10月) 定価50銭

 

渡り鳥の生活 西村眞一所蔵

下村兼二 アルス発行(1933年11月) 定価50銭

 

これらの5冊は、京都の古書店目録に、他の『アルス科學寫眞叢書』を含めて18冊が売りに出ていたので、一括して購入した本である。

下村の没後に遺族から山階鳥類研究所に、下村が撮影したガラス乾板やネガフィルム、写真プリント、映画フィルムの一部、文学資料などが、寄贈された。

下村の生涯の足跡や業績を、(公財)山階鳥類研究所のサイト(外部サイト)にて、見ることができる。