『東京都の鳥"ユリカモメ"制定60周年』

西村眞一(中西悟堂研究家/善福寺公園探鳥会担当)

 昭和40(1965)年10月1日に、『東京都(都民)の鳥』に“ユリカモメ”が制定されてから、今年でちょうど60周年となった。

各都道府県には、それぞれの鳥が制定されている。

ちなみに日本の国鳥は、“キジ”です。

ちなみに私が初めてキジを見たのは、今から50年ほど前に皇居内で仕事をしていた時に、キジを皇居内で見たのが最初でした。

 

キジ雄 2009年5月2日 千葉県大網白里町

 

 昭和42(1967)年に発行の『原色県花・県鳥―物語と図鑑』に、各県の鳥が紹介されている。

著者は当時、日本野鳥の会会長の中西悟堂と、日本植物友の会会長の本田正次の二人である。

 

『原色県花・県鳥―物語と図鑑』中西悟堂、本田正次共著 昭和42年8月1日発行

右:箱 発行所:東雲出版株式会社 西村眞一所蔵

 

 『原色県花・県鳥―物語と図鑑』の著者はしがきによれば、「県鳥は、昭和38年に野生鳥獣保護の新法律が公布され、それに伴って各都道府県に保護の新機構もできたので、保護思想普及の一環として、同年9月、政府は四十六都道府県の象徴として鳥(獣)を公募制定する旨を全国に通達しました。

そして早急に選定を見た県もありましたが、遅々として決まらない県も多く、ごく最近まで県鳥は不揃いのままでした。それがようやく、42年3月の山形県を最後に、待望の全選定を見たのでした。」とあります。

 『東京都の鳥』がどのように選定されたかというと、『原色県花・県鳥―物語と図鑑』と東京都生活文化局(外部サイト)に詳しく解説されている。

昭和40(1965)年6月に東京都経済局農林部林務課は、まず候補となるユリカモメ、オナガ、キジバト、メジロ、シジュウカラ、ムクドリ、ヒバリ、アカコッコ、ミソサザイ、アホウドリの10種類を選定し、都民による葉書投票を実施した。

投票総数3,242票の内、第1位が579票のユリカモメ、第2位が421票のメジロ、第3位が402票のヒバリだった。総数3,242票の結果に、中西悟堂は東京都民1,000万人の首都として極めて微々たる総数結果に、都民の鳥に対する無関心さを嘆いた。

 ユリカモメが第1位となった要因として考えられるのが、平安時代の歌物語『伊勢物語』にある。伊勢物語の中で、歌人の在原業平(ありわらの なりひら)が隅田川で出会った鳥を「なにしおはゝ いさこととはん 都鳥 わがおもふ ひとはありやなしやと」と、和歌に詠んでいる。

また『古今和歌集』には、「白い鳥でくちばしと足が赤く、京にはいない鳥で、船頭にこの鳥は何かと尋ねたら、都鳥と船頭が言った」内容が書いてある。

このくちばしと足が赤い「都鳥」が、やはりくちばしと足が赤い“ユリカモメ”か、ユリカモメより一回り大きくて、同じようにくちばしと足が赤い“ミヤコドリ”を指しているのかが、昔から論争になっていた。

 

隅田川 2025年11月30日

 

ユリカモメ(冬羽) 2012年4月4日 上野不忍池

 

ユリカモメ(夏羽) 2024年4月6日 上野不忍池

 

ミヤコドリ 2025年11月30日 千葉県船橋市三番瀬

 

 一昨年の12月に逝去した松田道生さん(以下松田)の著作に『野鳥をよむ』がある。

野鳥関係の書物を紹介した本です。

松田は大学卒業後に、日本鳥類保護連盟、日本野鳥の会の職員となり、退職後は野鳥関係のフリーランスとして活動した。

また野鳥古本収集家としても著名で、この『野鳥をよむ』でも野鳥古本を多数紹介している。

私も含めた野鳥古本収集家にとっては、まさに『バイブル』と言える名著である。

 

『野鳥をよむ』松田道生著 1994年6月30日

発行所:株式会社アテネ書房 西村眞一所蔵

 

 この『野鳥をよむ』に、熊谷三郎著の『都鳥新考』を紹介している。

この『都鳥新考』について松田は、「都鳥についての有名な逸話は在原業平が隅田川を渡るとき、あの白い鳥は何かと船頭にたずねたら、あれが都鳥と教えられ、都を思い出し涙を流したというもの。

この業平が見た都鳥は、何かという考証が本書である。」と、書いている。

熊谷三郎は、『都鳥新考』の中で、古い書物から『伊勢物語』の都鳥を、ユリカモメと断定している。

 

『都鳥新考』 昭和19(1944)年1月20日発行

発行所:亜細亜書房 西村眞一所蔵

 

30年前の1995年11月1日に港区新橋駅から江東区の豊洲駅間に開業した、東京臨海新交通臨海線は、株式会社ゆりかもめが運営している。

その新交通ゆりかもめが通る台場の海にも、ユリカモメがいる。

 

ユリカモメ 2009年3月19日 港区台場

 

 各都道府県の鳥の中には、総称としての鳥の名前がある。

青森県の鳥は、総称としての“ハクチョウ”です。日本には主に、オオハクチョウとコハクチョウが生息している。

また神奈川県の鳥も、やはり、総称としての“カモメ”です。

本コラムの『中西悟堂と善福寺池』の中でも書きましたが、中西悟堂は戦前の『野鳥誌終刊号(昭和19年9月号)』に、昭和5(1930)年から昭和19(1944)年までに記録した「善福寺風致地区の鳥」を発表して、年間87種類の鳥を記録している。

但し「善福寺風致地区の鳥」には、ハクチョウもカモメも共に記録がない。

東京都の鳥に“ユリカモメ”が制定されてから40年と3カ月後の2006年1月6日に、善福寺池にコハクチョ6羽が渡ってきた。

また、ユリカモメ、セグロカモメ、カモメなども善福寺池に渡ってきた。“ユリカモメ”が東京都の鳥に制定されてから40年後に、善福寺池にコハクチョウやユリカモメが渡ってくるなんて、中西悟堂も予想だにしない出来事であろう。

 

ユリカモメ(左) コハクチョウ(右) 2006年1月8日 善福寺公園上池

 

セグロカモメ 2006年1月8日 善福寺公園上池

 

カモメ 20006年1月10日 善福寺公園上池

 

 日本野鳥の会東京の会報誌の名称は『ユリカモメ』である。

会報誌の名称が『日本野鳥の会東京支部報』から『ユリカモメ』に改称されたのは、昭和51(1976)年7月号からであった。

私が日本野鳥の会東京支部(現在は日本野鳥の会東京)に入会した、昭和51(1976)年8月の1カ月前の出来事だった。

 

日本野鳥の会東京支部『旧支部報第4号』 昭和26(1951)年8月18日発行

西村眞一所蔵

 

『日本野鳥の会東京支部報』 左:昭和29(1954)年8・9合併号 右:昭和30(1955)年10月号

西村眞一所蔵

 

『ユリカモメ』昭和51(1976)年7月号

 

『ユリカモメ』2007年1月号の表紙は、私が2006年1月に善福寺池で撮影のコハクチョウでした。

 

『ユリカモメ』2007年1月号

西村眞一所蔵

 

『ユリカモメ』は2022年4・5月号から隔月の発行となり、デザインが一新された。

千葉県の鳥は、“ホオジロ”である。

私が昭和56(1981)年の創立(当時は日本野鳥の会千葉県支部)以来の会員である日本野鳥の会千葉県(外部サイト)の会報誌の名称は、県の鳥の名前と同じ『ほおじろ』である。

また日本野鳥の会千葉県の特製のキーホルダーのデザインも、ホオジロである。

 

『ほおじろ』2025年11月号

 

日本野鳥の会千葉県特製キーホルダー

 

同じく会員の日本野鳥の会 埼玉(外部サイト)の会報誌の名称も、埼玉県の鳥“シラコバト”と同じ『しらこばと』を名称にしている。

 

『しらこばと』2025年11-12月号

 

各都道府県の鳥は制定されているが、私の住んでいる杉並区では“杉並区の木”として、スギ、アケボノスギ、サザンカが制定されているが、“杉並区の鳥”は制定されてない。

中西悟堂が戦前に杉並区に住んでいて、日本野鳥の会を創設した由来からしても、ぜひとも杉並区民で投票して“杉並区の鳥”を、制定してもらいたいものである。